重ねた嘘、募る思い
「ヨウって彼氏だったんだ」
花音と陽が去って行く背中を見つめて醍醐くんがそうつぶやいたように聞こえた。
もしかしたら病院前で花音が口にした『陽』という名前を女性だと思い込んでいたのかもしれない。
それを聞いたように振る舞っていいのか、聞こえなかった振りをするのがいいのかわからなかった。だけど無視しているように思われてもいやだったから、うんと言おうとした時。
「幸せそうでよかった」
とっても優しい顔で花音の後ろ姿を見つめている醍醐くんがそこにいた。
悔しそうでもなく、本当に花音の幸せを喜んでいるようにしか見えなかった
まだ花音のことを思っていただろうし、醍醐くんが一番辛いんだろうけどその表情を見て私が切なくなってしまう。
醍醐くんは花音への想いを昇華できたのだろうか。
そして、さっき陽に呼び止められる前に私に言おうとしていたことはなんだったのかすごく気になっていた。
だけど今更聞ける雰囲気じゃない。
とてもじゃないけど私から話を切り出すことはできそうになかった。