重ねた嘘、募る思い

「藤城さん、今日は本当にありがとう」

 このまま大学へ戻ると言う醍醐くんと駅で別れることになった。
 違う電車に乗るのに、醍醐くんは私の乗る電車のホームまで見送りに来てくれた。
 一緒にプラットホームに入ってくる電車の風を感じ、その独特の匂いを嗅いで慣れているはずなのに今日は妙に鼻についた。
 電車に乗って扉の前に立つと、醍醐くんと向かい合わせになる。
 これで終わりかと思うと悔いを残したくはなくて意を決し、さっきから引っかかり続けていることを問いかけてみることにした。

「さっき言い掛けたこと、なに?」
「――え?」

 扉が閉まる前の音がホームに鳴り響く。
 お願い、もう少しだけ待って。
 きょとんとした醍醐くんの目が思い出したように見開かれて、唇がわずかに動き出す。 

「あの時君が言ったことって――なに?」

 願いは届かず、プシューっと音をたてて扉が閉まる。
 苦笑を浮かべた醍醐くんの目が優しいもので、異様な胸苦しさを覚えた。

「お幸せに!」

 そう、聞こえた気がした。
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