愛してるの代わりに
「いやあ、宮脇が芸能界入りとはねぇ」

アイツ、あんなの興味のないただのサッカーバカだと思ってたよ。

夏休みの補習授業の最終日。

帰り支度をする雛子の元へと未来がやってきた。




「ホントだよね、私もまさか合格するとは思ってなかった」




オーディションの為上京する前日の夜、崎坂家と宮脇家合同で、慎吾の壮行会が開かれた。

「慎吾、お前の力見せつけてこい!」

「そうだそうだ! 慎くんは男前だ、他のヤツらには負けないって!」

父親ふたりはすっかり酒に呑まれたようで、慎吾に絡み酒をする始末。




「大人ってのはまったく……」

ふたりに絡まれて疲れ果てた慎吾が、雛子の横へやってきた。




「お疲れ様。っていっても本番明日なのに大丈夫?」

「いや、明日は会場行って受付と軽いリハーサルするだけ。本番は明後日だから平気だよ」

「そっか。はい、コーラ」

「サンキュ」




「ねぇ、慎くん」

「ん?」

「もし、もしね。オーディション受かったらどうするの?」

雛子の言葉に慎吾はしばらく無言になる。




「そうだなぁ。まだ何も考えてないけけど……」

「けど?」

「どうせ受けるからには優勝したいな、とは思ってるよ」




ほら、俺って負けず嫌いじゃん?

そうやってキラキラした笑顔を向ける慎吾の顔が、雛子には眩しすぎで直視できない。




ああ、やっぱり慎くんかっこよすぎです……。




「どした? 雛」

「……、いやいやなんでもないです」

「そ?」

「慎くん……。頑張ってね」

「おー、それなりに頑張ってくるわ」





有言実行。

小学校の卒業文集に書かれた慎吾の好きな四字熟語。

その言葉通り、壮行会の2日後、慎吾は見事オーディションで優勝したのだった。



< 12 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop