愛してるの代わりに
「それで慎くん、どうするって? 受けてくれるの?」

台所でお茶の準備をしている雛子の母親の問いに、鈴花はVサインを見せる。

「もちろん、賞金使って焼肉食べ放題で手を打ったわ!」

「あら、食べ物につられるなんて慎くんもまだまだ子どもねぇ」

母はケラケラ笑っているが、雛子は素直に笑うことができなかった。




ただでさえ今、ふたりの間には距離がある。

慎吾は部活が忙しくて、朝も練習で早く出るし、部活も遅くまでやっているため顔を合わせることも少ない。

3年生になってクラスも離れてしまい、月に1回話すか話さないかくらいだ。




そしてふたりの疎遠の原因のひとつ、ユリちゃんとはどうやら別れたらしく、その噂を聞きつけた他の女の子たちが慎吾を狙っていると聞く。

今のところ部活に集中したい、との理由で彼女の座を射止めたラッキーガールは現れていないようだが、雛子は気が気でない。

そんな状態の最中、また慎吾ファンを増やすようなオーディションへの参加。




「どんどん慎くんが離れてく……」




お茶に出された大好きな洋菓子屋さんのシュークリームが、とても苦く感じた。


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