愛してるの代わりに
優勝からしばらくは、学校中が慎吾の話で持ち切りだった。

気の早いヤツらはみんな、

「○○さんのサインもらってきてよ!」だの、

「このバラエティ番組の観覧に行けるよう根回ししてほしい」だの、

まだ普通の中学生である慎吾にはできるはずもない無理難題を言い続け。

「これから有名になるかも知れないから」

と、慎吾のサインを求める列まで出現する始末。

夏休みに入る直前の発表だった為、混乱は数日で収まったのが慎吾にとっては不幸中の幸いだろうが。




「2学期に入ったらますます加速するかもね」

「……慎くん大変だあ」

未来と顔を合わせ、笑いあう。

今日の補習授業の前だって、慎吾のクラスの前には数人に囲まれる慎吾の姿があった。

これから先、登下校中に他校の生徒から話しかけられることも増えるかも知れない。

渦中の人物になってしまう慎吾のことが心配なのはもちろんなのだが。

自分の想いも伝えられないまま立ち止まっている自分のことも雛子は情けなく思った。




「慎くんのことだから、上手にあしらうよ、きっと」

「だろうねえ、断ってもイヤミないもんね、宮脇」

「これから未来ちゃん、どうするの? デート?」

雛子の言葉に口角を上げて微笑む未来。

大人っぽい親友の彼氏は、年上の高校生だ。




「うん、映画でも観に行こうって誘われてるから行ってくるわ」

「受験生なのに余裕だね」

「うわ、雛子のくせに意地悪言うとか有り得ない」

そう言って雛子の頬を軽くつねると、

「じゃあね、休み中また連絡する」

「うん。たまには私とも遊んでね」

「わかってるって」

鼻歌を歌いながら教室を後にする未来を見送り、雛子もゆっくりと教室を後にした。

< 13 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop