愛してるの代わりに
「慎くんが東京に行って、多分この恋が実ることなんてありえないって思って、忘れようとも思ったの。でも、忘れようと思っても、テレビや街中で慎くんを見かけるの。時々は実家にも帰ってきて、うちの家にも顔出してくれて、実際の慎くんにも会っちゃうし。それで全然忘れられなくて、さ」

「厄介なヤツに惚れたもんだね、雛子も」

「やっぱりそう思う?」

「思う思う。きっと宮脇とお隣さんじゃなかったら絶対雛子、さっさと彼氏作って結婚して、幸せな家庭の奥さんやってたと思うよー」

「うん、私も昔の予定では20代前半に結婚する予定だった」

「予定はあくまで予定よね。私だって小さい頃の将来の夢、パティシエだったもん」

そんな親友は現在、百貨店の高級ブランド化粧品に勤務している。

見た目の美しさに加えて、自社製品を的確に顧客にアドバイスする力が評判を呼び、全国でもトップレベルの売り上げを誇っているカリスマ販売員だ。




「とにかく雛子、まずは宮脇の返事をちゃんと聞きなさい。ダメだったらその時は私が力いっぱい慰めてあげる」

「うん、ありがとう」

「そんでもって殴りたかったら代わりに殴ってあげるし、男だっていくらでも紹介してあげる」

美しい顔からは想像できない毒舌っぷりは今も昔も健在だ。

雛子は首を横に振る。

「ううん、殴りたかったら自分で殴る。でも、泣きたいときは未来ちゃん呼んでもいい?」

「当たり前よ。いつでも呼びなさい」

「ホントにありがとう。私、もう一度勇気出してぶつかってみるよ」

「よく言った。よし、雛子の勇気にもう一度カンパーイ!」

「乾杯」

未来にたくさんの勇気をもらい、雛子は居酒屋を後にした。

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