愛してるの代わりに
「好きだって気付いたのは2年くらい前かなあ? たまたま実家帰ってた時に偶然街中で雛見かけたんだよ。男とふたりっきりで歩く雛」
「え? 男の人とふたり?」
「うん。でさ、なんかイラっとして。感情ドロドロになってくるのが自分でもわかんの。もう黒い感情で覆い尽くされた感じ。そんなになって初めて気づいたんだよ。うわあ、俺雛のことちゃんと好きじゃんって。誰かのものになるのなんか許せねぇ、って」
「え? きっかけまで私と一緒なの?」
今度は慎吾がびっくりする番だった。
「私が慎くんが好きだって自覚したきっかけはね、ユリちゃんとふたりで帰る慎くんを見てからなの」
「雛、それって」
「中学2年生のとき。自覚してからは辛かったぁ。幼馴染としては近くに居られても、その関係を崩したくないから告白なんか当然できなくて。そうやってグズグズしてたら、慎くんは東京行ってスターになっちゃうし、おかげで離れてても色んな媒体で慎くん見かけるから私の恋の幕引きも引くに引けなくなっちゃったしさ」
「え、でもあの男は」
「何勘違いしているのか知らないけど、自慢じゃないが私は男の人と付き合ったことなんて一度もございませんよーっだ。多分仕事関係の人とか何かじゃない? 少なくとも私は慎くんに胸張って言えるよ。恋人なんてできたことない、って」
少しお酒が入っているせいかいつもより饒舌な自覚はあるものの、その発言が慎吾にとってとても嬉しい内容であることに雛子が気付いたのは、さらりと爆弾発言を投下した後だった。
「慎くん?」
気付いた時には隣のブランコに人はおらず、正面から慎吾に抱きしめられていた。
「ヤバイ、すっげー嬉しい」
「なんで?」
「今、誰とも付き合ったことないって言ったよな?」
「言いましたけど、何か? 馬鹿にしてますか?」
「馬鹿になんかしてねぇよ。それってつまりさ、雛にとっての初めては俺ってことだろ?」