愛してるの代わりに



「じゃあ僕たちは一旦席を外すから」

「慎吾くんの家まで送っていくわ。話が終わったら呼んでちょうだい」

黒川と早見が部屋を出て行き、改めて慎吾が雛子に向き直る。

「なんか色々と、事後承諾みたいになってるけど」

「うん」

「雛は大丈夫? ホントに俺と結婚してくれる?」

いつもより弱々しい声に緊張が見え隠れしているのを感じる。

ふと目線を下に落とすと、慎吾の手が軽く震えているのが見えた。

「もちろん。こちらこそよろしくお願いします」

コツン、と額と額が触れた後、自然と唇が重なった。

「ふふ。この間慎くんが言ってたみたいに、ホントに急になっちゃったね、結婚」

「ごめん。迷惑かける」

「いいよ、別に。でも仕事はすぐには辞められないから、東京に出てくるのはちょっとだけ時間かかるけど」

「そうだよな。しかも雛ってば公務員だし。もったいないっておじさんやおばさん、反対しないかなあ?」

「大丈夫だよ。うちの親は夫婦一緒にいるのが一番いいって考え方の人だし。私も慎くんと結婚するときがきたらお仕事は辞めないとなあって思ってたし」

私は慎くんと一緒にいたい。

はっきりと口にすると、ようやく慎吾の顔に笑顔が戻った。




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