愛してるの代わりに
「雛、朝っぱらからホントにごめん。空港でNY帰りのコイツらに会ってさ。なんかいつの間にやら雛に会わせろってついてきちゃって」
その説明で、何となく想像がついた。
「もしかして、慎くんの高校の同級生の……?」
「そう、藤崎 貴哉(ふじさき たかや)とすみれちゃん。こっちはふたりの子どものあやめちゃんと貴人(たかひと)くん」
慎吾の紹介に、片手を挙げる貴哉とふわっと微笑むすみれ。
あやめは「はーい」とぴしっと返事をし、貴人も姉に習ってか、「あーい」と舌足らずな返事をしてくれた。
「慎吾から聞いてるとは思うけど、結婚式出席できなくてごめんね。ちょうど海外公演と重なっちゃってて」
肩をすくめる貴哉に、ブンブンと手を横に振る。
「忙しいのは慎くんから聞いていたから。気にしないでください」
「ロンドン・フランス・ニューヨークの3都市で公演だもんなあ、貴哉もすっかり歌舞伎界のプリンスって言葉が似合ってきちゃって」
「何言ってんだよ。慎吾だって忙しそうじゃんか」
笑い合う慎吾と貴哉。
それを温かく見守るすみれの笑顔。
何となく、高校時代の3人の関係が見えるようで、雛子は目を細めた。
歌舞伎界の名門一家に産まれ育った貴哉と、料亭の娘であるすみれ。
祖父同士が懇意にしていた関係で、小さな頃から「許嫁」として育てられていたという。
そんな周囲の決められたことではなく、あくまで想い合って結婚したふたり。
日本のみならず世界で活躍する貴哉を、すみれは側でしっかりと支えている。
その話を慎吾から聞いていた雛子は、早くふたりに会いたいなと思っていたのだった。
「雛子ちゃん、何か聞きたいことある?」
何でも聞いて、と胸をドンと叩く貴哉。
「貴哉ってば、その前に私たちは雛子ちゃんにお礼を言わなくちゃいけないでしょ」
たしなめるようにすみれが言って、雛子の方を振り向く。
「咲良ちゃんから聞いてるとは思うけど、雛子ちゃんの勉強ノートのお世話になった友人その2とその3です。ホントにありがとう、助かったのよ」
「なんだか信じられない……」
「何が?」
「だって、私のノートがみんなが知ってる人たちにも見られてたってことでしょ? 昔の私が聞いたらきっとびっくりしちゃうよ」
「確かに雛に、そういう話してなかったもんなぁ」
「何!? 慎吾ってば雛子ちゃんに高校生活の話してないの?」
それは大変! と大げさなポーズを貴哉が取る。
「貴哉は雛に余計なこと喋りそうだから、もう喋んな。雛、聞きたいことはすみれちゃんに聞け」
「そうねぇ、貴哉は話盛っちゃうことがあるから。雛子ちゃん、知りたいことはない?」
少しだけ騒がしい貴哉とおっとりしたすみれ。
それで均等が取れているカップルのようだ。
「じゃあ、また。今度はゆっくりと」
「雛子ちゃん、朝から本当にごめんね」
朝食も一緒にどうかと誘ったが、「それは申し訳ないから」と、藤崎家の面々は数十分滞在した後、帰宅することになった。
「ひなこちゃん、こんどいっしょにあそんでね」
あやめの可愛いお願いに、雛子はうん、と笑顔でうなずく。
貴人は、貴哉の腕の中で夢の中だ。
「じゃ、気をつけて」
「来てくれてありがとう」