追憶のエデン
そして一軒のお店の前で止まると「ここだよ。」と微笑み、二人で中へと入った。
するとさっきまでの雰囲気とは一変し、そこはジャズが流れる、おしゃれで大人な雰囲気のダイニングバーだった。


そのままグレンにエスコートされ席に着く。
テーブルに置かれたキャンドルの明かりがゆらゆらと揺れ、薄暗い店内を温かく照らし、中央に置かれた巨大な水槽の中を、紅い鱗を煌めかせる妖艶で美しい一人の人魚と、色とりどりの熱帯魚が切り取られた海の中を泳いでいた。


「ほっ、本物の人魚さん!?」


絵本や映画でくらいしか見た事のない人魚に本気で驚けば、グレンも驚いていた。


「えっ!?偽物の人魚なんているのっ!?」


と、全く違う方向で驚きあっていた。そしてあたし達に気付いたのか、水槽の中から微笑みながら手を振る人魚さんと目が合い、その美貌に思わず頭がほーっとなってしまった。


「ちょっ!あいつは魔物だよっ!ああ見えて凶暴な肉食獣だから見惚れんなって!」


そう言われても人魚が魔物で、その上凶暴性なんて結びつけられない。
でも何が起きたのかその人魚さんが突然阿修羅の様な形相になり、牙を剥き出しにして威嚇され、本気で驚いてテーブルを挟んだままグレンに抱きついてしまい、更にグレンに笑われてしまった。



漸く運ばれてきたトマトとバジリコのブルスケッタとプロシュートの前菜がテーブルに置かれる。小気味良くポンとコルクを抜かれ、グラスにシュワシュワと綺麗なゴールドのシャンパンを注いで貰い、グレンと乾杯した。


「初めてシャンパンなんて飲んだ!お酒ってカクテルは別として、苦いってイメージだったからあんまり飲まなかったけど、飲みやすくて美味しいねっ!」


「でしょー?これ俺のおすすめー。飲みやすくて好きなんだー。」


そう言うとグレンはグイッと飲み欲し、またグラスにシャンパンを注ぐ。そしてあたしも爽やかでフルーティーなこのシャンパンが気に入り、気付けば二人でどんどんグラスを空けていった。
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