追憶のエデン
でもそんな声が届いたのか、鞭が宙を切り裂く音がピタリと止む。


「……痛い?…苦しい?……この程度で?


ハッ!笑わせないで下さいませ?
そして……わたくしを侮辱するのも大概になさい。」


「な…何を、言って……っぐッ!!」


「白々しい!まだ惚けた事を仰るのなら、この首へし折って差し上げますわァ。」


急に詰められた距離。
そして呼吸が出来るか出来ないかの力加減で、首に力が込められる。


決定打の分からない恐怖にまた、一筋涙が頬を伝わり床に落ちて行った。



「貴女さえいなければ……
――貴方さえ存在しなければ、偽りの中でもわたくしは幸せだった!



何度、あの方に愛されれば消えて下さるの?


こんなに欲しくて、欲しくて、堪らないのにぃッ……。」


「…ぃた、痛…ぃッ…!…は、放し…っ…て…」


アリシアさんの深紅に彩られた長く綺麗な爪が、掛けられた首に食い込んでいく。


「……それなのに……それなのに…貴女ときたら!
あんなに求めて貰っているのに、貴女は何なんですの!?
人間の恋人が他にいながら、グレンも、あの執事も、ルキフェル様もタラシこんで、とんだお姫様ですわね!」


首にかかる力が緩められたかと思えば、あたしの身体は放り投げられ、壁にぶつけられ、床へと転がされれば、さっきとは違う痛みが全身に駆け巡り、乾いた喉は、新しく入る酸素を拒む様にさらに喉を乾かしていく。


「――ッけっほッ…ぅんぐッ…ゴホッ……!」
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