好きになんか、なってやらない
 
すでに人が少なくなったフロア。
シンとしているので、なるべく音を立てずにやり過ごしたい。


だけど、コピー機を動かせば、嫌でもウィーンといううるさい機械音が鳴ってしまう。
振り返ることなく、5枚ずつ印刷をして、再び会議室へと戻った。



あとは、5人分閉じれば……。


顔を上げると、23時を過ぎていた。
いい加減、焦ってくる。


ささっと一枚一枚折り込んでいると……



「なーに一人でやってんの?」



急に響き渡った一人の声。

一瞬にして、その声の主が分かってしまい、振り返るのが嫌だと思いながらも、ゆっくりと振り返った。

そこには、予想通り、岬さんが立っていて……


「……お疲れ様です。
 課長に頼まれたファイリングをしているだけですよ」

「もうすぐ終電じゃねぇの?」

「分かってます。もう終わりますから」


無駄話をしないよう、すぐに目線を書類へと戻した。
 
< 10 / 301 >

この作品をシェア

pagetop