好きになんか、なってやらない
 
「ごめんな、ずっと黙ってて」


スタジオを出て、しばらく歩いた。

人通りの少ない道路に、私たち以外はいない。


「ううん……無理やり言うことでもないし」


私だって、何もなければ元彼の話なんていちいちしなかった。
過去の恋愛の話を、自分からするものでもないというのは分かってる。

だけどどうしても、一つだけ聞きたい。



「未練は……ないの?」



意地悪な質問だ。
NOと答えてほしくて、わざと聞く。


「お前がそれ聞くの?」
「……だって…」
「5年も前の女に、未練なんか残ってるわけねぇだろ」


そう言って、凌太は笑った。


なんとなく……
自分が好きになる前の凌太を思い返した。


女にいい加減だった凌太。
もしかしてそれは、美空さんが関係していたんじゃないかって……。

本気で好きになった人に振られ、誰も好きになれなくて恋愛をゲームのように扱ったんだと……。
 
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