好きになんか、なってやらない
ピタリと止まる足。
見上げた凌太は、無表情のままで、じっと前を見据えている。
「あの時は別れるしかなかったのっ……。
別れないと事務所をクビにするって言われてっ……。まだ売れてもないあたしに、選択肢なんかなくてっ……。
だけどもうそんなこと、誰にも言わせない!
あたしは凌太がずっと好きだったんだよ!!」
ズキンと痛む胸。
どうしようもないほどの胸騒ぎが襲ってくる。
もう言われなくたって気づいてしまった。
凌太と美空さんの関係を……。
そして凌太が、必要以上に美空さんに興味をもたなかった意味も……。
「もう遅ぇよ。
今の俺に、お前は必要ないから」
凌太は顔だけ振り向き、冷たい眼差しのまま一言返した。
なぜだかその言葉に、私までもが苦しくなり、泣きそうになった。
「行こう、玲奈」
「……」
頷くことも出来なくて
ただ彼に手を引かれるがまま。
やり直してほしいわけじゃない。
なのに、このやりきれない思いはなんなんだろう……。