吸血鬼くんの話、
「明?早く起きな、明」

満月の声で目が覚める。
寝ていた間に雑炊が出来上がったらしい。
満月のミトンをはめた両手は土鍋を抱えていた。
「あ…もう、夜か。ひかりは…」
ひかりはまだ寝ていた。
あまり、いい夢は見られていないようで、うなされている。
「ひかり…」
満月も困っていたのだろう。
仕方なく近くの机に鍋敷きを敷き、土鍋を置く。
「とりあえず器を取ってくるから…早く目覚めさせてやれ」
心配そうな満月の顔だが、俺だって心配だ。
「ひかり!」
体を揺すり、強く呼ぶ。
ひかりの苦しむ姿は、見たくないのに…俺は何もすることができない。
ひかりが、鬱陶しそうに目を覚ました。
「よかった…。おはよ、ひかり。気分は?」
ひかりはボーッとしたままこっちを見た。
大きな瞳で見られると少し、胸が高なる。
「大分、良くなったよ。ありがとう………明」
ひかりは微笑み、俺の頭を撫でた。
それは、恋人のように、優しいものだった。
ひかりに、赤くなった顔を見られないようにうつむく。
「ひかり。治していこうな…………俺も、一緒に…」

ずっと、一緒に。

あなたの隣にいたい。

「明は病気なんてないよ。…それに、私はすぐ良くなっちゃうよ?そしたら、明…」

俺の気持ちは口に出さないけど、これだけ長い間一緒にいればわかる。

「うん。……役割を、果たしにいこう」

ずっと前から、決まっていたこと。
やらなくてはならないこと。

魔女を…シャルドネを、殺しにいこう。
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