孤独女と王子様

今日、土曜日の一組目の新郎新婦が控室に入るまでの間、婚礼係の事務室で待機しているのは、僕と宇梶さんだけ。

宇梶さんも恐らく今後披露宴を予定しているカップルとの打ち合わせがこの後あるはず。

つかの間の休息。

『成瀬川さん、コーヒー飲みますか？』
「はい、ありがとうございます。でも自分で淹れますよ」

コーヒーメーカーのデキャンタを持ち、カップに注ぐ。

『あの、私、成瀬川さんより年下ですよね』
「はい。そうみたいですね」
『何で私に敬語なんですか？』

自分のデスクに座りながらも、僕をまっすぐ見つめる宇梶さん。

「宇梶さんに限ったことじゃないですよ。このホテルの従業員全員に敬語です」
『疲れませんか？』

敬語を使うように構えているわけではないけど、社会人になってからは自然と誰とも敬語になった。

学生時代の同級生や後輩には使わないんだけどね。