シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「どうかなさいましたか?」
 蓮藤さんの声で、ハッと我に返る私。
 またしても、想い出にふけっちゃってた。
 こういうことが続くと、「変なヤツだな」って思われそうだから、気をつけないと。
 慌てて、「いえ、何でもないです。その場所へは、今日は行けないんですよね?」と尋ねることで、どうにかその場を取り繕った。
「色々と準備が必要なのですよ、そこへ行くには。ですが、明日には必ず手配いたしますゆえ、今日はご勘弁を」
「いえいえ、だったらいいんです。お気になさらず。ただ、どんな場所なのかなぁって気になって」
「仕事がらみで、私は月にだいたい2~3日はこの島に来ていますが、自由時間にぶらりと散歩するのが好きなのですよ。この島は、風光明媚ですからね。特に夏は美しい。そうして島を見て回っていた折、偶然見つけたとっておきの場所なんですよ。見つけにくい場所柄、地元民でもなかなか知らないはずですし、ある種、私の自慢でもありますね。明日には必ずお連れいたしますんで、お楽しみにしていただければ幸いです」
 ますます気になってくるなぁ。
 どんな場所だろう。
 私は早くも明日が待ち遠しくなってきた。
 それにしても……。
 そんな「秘密の場所」を、私なんかにあっさりと教えてしまってもいいんだろうか?
「あの……。私などに、教えてもいいんですか? そんなとっておきの秘密なのに」
「他言無用でお願いしますよ!」
 冗談めかして言いながらウインクする蓮藤さん。
 その様子に思わずドギマギしてしまう。
 続けて蓮藤さんが言った、「雫様に特別にお教えするんですから」という言葉に、私はさらに動揺してしまった。
 私だけ特別……ってこと?
 考えすぎかなぁ。
 でも……少なくとも嫌われてはいないはず。
 そして、そのことだけで、私は嬉しかった。
 とりあえず、心の動揺を隠すため、「はい、楽しみにしていますね」と言っておく。
「そういうわけで、秘密の場所へ行くのは残念ながら明日になってしまうのですが。その代わりと申しては何ですけど、ショッピングなどはいかがでしょう。会長より、『雫様がご所望の品は、どんなものであれ必ず買ってさしあげなさい』とのお申し付けでして」
 ええっ?!
 本心は……すごく行きたい!
 どんなお店があるのかというのも、気になる。
 ……でも、いいのかな。
 桜ヶ丘さんがそう言ってくださったとはいえ、ご本人のいないところで、お金を出していただき、ショッピングを楽しむだなんて。
「会長は『到着が遅れることについてのお詫びの意味もあるから、気兼ねせずにショッピングを楽しんできてほしい』ともおっしゃってましたよ。ですから、ご遠慮なく」
 私が押し黙っているのを見て、蓮藤さんが言ってくれる。
 うーん、それじゃ、ちょっと申し訳ないんだけど、行こうかな。
 何も買わず、ウインドウショッピングでも私は楽しめるから。
 そうなると、蓮藤さんには退屈な思いをさせることになっちゃうけど……。
 だけど……やっぱり行きたい!
「では、お言葉に甘えまして……」
「はい!」
 笑顔で元気よく返事をしてくれる蓮藤さん。
「では、お荷物などのこともありますし、いったん帰って、車で出直しましょう」
 確かに、そのほうがよさそう。
 そして、蓮藤さんもずっと自転車だと大変そうだし。
 そういうことで、私たちはいったん別荘へと引き返した。
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