今宵も、月と踊る

「あの男の子は良くなるの?」

「ああ」

「そう、良かった……」

志信くんの返事を聞いて安堵する。“月天の儀”が終わると直ぐに、少年が運ばれていってしまったので、様子がわからなかったのだ。

「私……本当はちっとも分かっていなかったのね……」

……志信くんのことも、“カグヤ憑き”のことも。

私が知っているのは志信くんから伝え聞いた伝説の部分に関してだけで、それが全てだと思い込んで分かった気になっていた。

でも、現実は違った。

“カグヤ憑き”の力は良くも悪くも強大だ。人ひとりの人生を容易く変えてしまえるほどに。

志信くんが向き合っているのは己に眠る“カグヤ憑き”の力だけではない。

……“カグヤ憑き”の力が変えた運命のひとつひとつと向き合っているのだ。

背負わされているものの重さに身震いがする。

志信くんはどうして平気な顔をしていられるのかしら?

私だったらきっと耐えきれない。

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