今宵も、月と踊る

「あの光の玉は何なの?」

漂ってきた光の玉におっかなびっくり触れてみるとほんのり温かった。志信くんが私の傷口を治してくれた時と同じ温かさだった。

「あれは月の神気だ。“カグヤ憑き”の力の源は月だ。満月とともに力が増し、新月とともに弱る。切り傷ぐらいなら新月でも何てことないが、大病を患った人間を癒すには満月を待つ必要がある」

「あの男の子ってそんなに悪い病気にかかっていたの?」

「脳に腫瘍があったそうだ。今は綺麗さっぱりなくなっているはずだ」

志信くんは今日に限って随分とお喋りだった。

儀式を終えて気が緩んだのだろうか。それか、“月天の儀”を私に見せると決意した日から、“カグヤ憑き”の秘密を話そうと思っていたのかもしれない。

「“カグヤ憑き”ってすごいのね……」

奇跡の力を目の当たりにして、志信くんを遠くに感じてしまうのは仕方のないことだった。

心細くなって彼の狩衣の胸元をぎゅっと握りしめる。

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