今宵も、月と踊る

(……しまった)

豊姫と別れ、来た道を戻って離れに帰ると、志信くんがガラス戸にもたれかかって待ち構えていた。

「どこに行ってたんだ?」

「……散歩に」

「こんな夜中にか?」

疑われるのも無理はない。時刻は既に夜中の1時を過ぎている。散歩に行くには遅すぎる時間だ。

けれど、志信くんには真実は言えない。

“橘川家の人は苦手なの。私のことを悪く言うから”

私は豊姫とひとつだけ約束を交わしていた。豊姫のことを決して口外しない、と。

「どうしても眠れなくて……お庭をあちこち見て回っていたの。でも、もう寝るわ」

上手い言い訳を考えるのってどうしてこんなに難しいんだろう。

志信くんを避けるようにして部屋に戻ると、めくれ上がっていたシーツを整える。

再び横になって目を瞑ると、何かが潜り込んでくる気配を不審に思って顔を上げた。

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