もう一度君の笑顔を
俺は課長を見た。


課長は怒っている風でもなく、笑っている風でもなく、ただ俺を真っ直ぐみつめてくる。


この人にだったら話してもいいかもしれない。


そう思ったのは、課長の人柄がそうさせたのもあるだろうが、誰かに聞いてほしいと思うほど俺が弱ってるせいかもしれない。



「冷静に対応できる自信がないんです。

 今の状況をどうにかしたいとは思っても、いざその事に関わろうとすると冷静でいられなくなるんです。」


そこでもう一度課長を見ると、課長は無言で続きを促した。


「業務中にする話すじゃないと思うんですけど・・・」


そう言うと、


「かまわん。仕事に戻っても、今のお前は使いモンにならんから。」



自分でもちょっとは自覚していたが、上司にはっきりと言われ少しショックを受けた。



「ちょっと長くなりそうなんですけど、聞いてもらえますか?」


そう言って、俺は今までの事を話した。




「お前、このままで良いのか?」



話を聞き終えた課長は、俺にそう尋ねた。


「俺には、もうどうこうする資格はありませんから。

 聞いていただき、ありがとうございました。なんかスッキリしました。

 噂の事は、冷静に対処するようにしますから、ご安心ください。」



そう言った俺に課長は


「中野、資格があるかどうかは自分で判断できるもんじゃないぞ。

 医者だって、弁護士だって、資格は与えられるもんだろ?

 本人に大事なのは、その資格が欲しいか。

 そして、その資格を取る為に全力を尽くせるかどうかだ。」


そう言って席を立った。


「今のお前はどん底だな。

 なら、どん底ついでにもう少しあがいてみたらどうだ。

 お前は、まだ何の努力もしてないだろ?」


そう言って俺の肩を叩き会議室を後にした。
< 21 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop