もう一度君の笑顔を
仕事を始めてからは、仕事が面白くなり、特定の彼女を作る事は無くなった。


まぁ、誰とも何にも無かったとは言わないが・・・。



そんな俺が友紀と知り合ったのはマーケティングと営業が合同で開いた飲み会だった。



マーケティングの方の幹事をまかされたのが俺で、営業の幹事が友紀だった。



友紀とは同期だったが、なんせ会社の規模がでかいので、同期は山ほど居る。



友紀の事は、顔は見た事があったが、話した事は無かった。



ただ、『営業の鉄の女』という噂だけは耳にしていた。


男社会の営業でバリバリ働き、好成績を収める気の強い女。


確かに、遠くから見る彼女は気が強そうだった。




お互いの連絡先を知らない俺たちは友紀が、社内のメールを使って、食堂で待ち合わせした。



食堂に着いて辺りを見回すと、後ろから声をかけられた。


「中野さん?」


振り返ると、確かに初めの研修で見た事ある女子社員が立っていた。


「高城さん?」


そう聞き返すと、彼女は安心した様ににっこり笑って


「営業の高城友紀です。宜しくお願いします。」


そう言って、俺に名刺を差し出した。



同じ会社で、しかも同期に名刺を差し出され、どうした物かと考えていると、友紀はハッと気づいたようで、


「す、すいません!ついいつもの癖で名刺を・・・」


そう言って慌てて名刺をひっこめる友紀を見て、俺は笑ってしまった。


噂とはだいぶ印象が違う。



正直、俺は幹事をやるのが嫌だった。


確か、幹事は『お前が幹事なら、女子社員の参加率が良さそうだから』と言って上司に押し付けられたのだった。


ただでさえ、乗り気じゃない幹事に一緒にやるのが他の部の女子社員なんて面倒だ。


そう思っていたのに、笑う俺を、ちょっと拗ねた顔で見上げる友紀を見て、何だが楽しみになったのを覚えている。
< 23 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop