もう一度君の笑顔を
友紀といるのは何だか心地良かった。


女同士の友情を見限っていた私の心に友紀はそっと寄り添うようだった。


踏み込んでくる訳でも、突き放す訳でもない友紀の優しさは私を癒してくれた。


友紀と二人で飲むほどに仲良くなったある日。


「彼の事好きなの?」


「え?」


それまで、あの夜について友紀は何も言って来なかった。


突然の質問に驚いて友紀を見れば、グラスに残った生ビールを一気に飲み干し、続けた。



「覚悟があるくらい好きなら、私は何も言わないよ。でも違うならやめる事を勧めるかな。」


会社に近い居酒屋で、個室でもなかった。誰がどこで何を聞いているかわからない状況のせいか、友紀はそれ以上の事は言わなかった。


覚悟って、会社にばれた時の事だろうか?それとも奥さんにばれた時のことだろうか?


多分、その両方だろう。


今まで自分が楽な方に都合の良い方に逃げて、目を背けていた事実。


このままでは駄目だ。



目が覚めた私は、彼に別れを切り出した。



元々相手も遊びだったんだろう、あっさり了承してくれた。



「別れたよ。」


後日、友紀にそう報告すると、友紀はにっこりと笑って、私の頭をぽんぽんと撫でたのだ。


私は不覚にもそれが嬉しかった。



友紀と仲良くなって、色んな事が分かった。


友紀は小さい頃に父親を交通事故で亡くしている事。


女手一つで育ててくれた母親も大学時代に病気で亡くなってしまったこと。


そして、彼女の数少ない肉親である祖父母も社会人になった後に相次いで亡くなった。


人に弱みを見せない友紀だが、この時ばかりはかなり落ち込んでいた。


今が肉親と呼べるのは、母親の弟にあたるおじさんくらいだが、このおじさんも、お母さんとは血がつながっていないらしい。



友紀には幸せになってほしい。決して口には出さないがそう思った。


優しくて、不器用な友人を心から大切にしてくれる人が現れる事を願っていた。
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