もう一度君の笑顔を
営業部に配属された当初、私と友紀は関わりがなかった。


元々、人と深く関わり合うつもりもないし、友紀は真面目で、面白みの無い女という印象だった。

そして、自分と同じで他人とどこが距離を置く友紀に私はまったく興味が無かったのだ。



そんな私が、友紀に興味を持ったきっかけは入社してしばらく経ったころのこと。



当時、私は他の部の男性と付き合っていた。


30代の彼は、新米の私から見ればかなり大人で、魅力的だった。


社内恋愛は恥ずかしいから他の人に知られたくないと言う彼の意見を尊重し、私たちは内緒で付き合っていた。


と、言うのは建前で、彼は結婚していたのだ。



他の部だし、彼は隠しているつもりだったようだが、それに木津無いほど私は鈍感ではない。



でも、当時の私にはそんなことどうでも良かった。


正直慣れない仕事に疲れていて、ただただ甘やかしてくれる大人な彼は私にとって都合の良い存在だった。


ばれたら、結婚しているのを知らなかったことにすれば良い。そんな風に思っていた。



そんな関係を続けていたある日、彼と食事をして、腕を組んで歩いているところを友紀に見られてしまったのだ。


ばっちり目が合った友紀と私。



彼は友紀に気づかなかったが、友紀は私の隣にいるのが誰か分かっているようだった。



不倫していると言いふらすだろうか?そんな心配もしたが、そんな噂が立つ気配もなかった。



どういうつもりなのか?ただ、他人の恋愛事情に興味が無いだけ?それとも、何か時の為に弱みを握ったつもり?



友紀のことを知らなすぎて、判断のつかない私は、友紀に近づいて真意を探る事にした。



警戒されるかと思ったが、友紀は簡単に私を受け入れた。


近づいて気づいた事は、友紀は他人に興味が無いのではなく、相手に気を使いすぎるという事。


他人に甘えるのが苦手なのだ。


他人に頼るのは苦手なのに、他人には頼られる。



友紀は近づけば近づくほどいい子だった。
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