恋宿~イケメン支配人に恋して~
千冬さんは、普段からあまりベタベタしたり甘やかしたりとイチャイチャするタイプではないけれど、不意にこうして想いを現してくれる。
その度こっちはどきりとしたり、嬉しくなったり……上手く転がされている気もする。
そんな風にして感じるしあわせも、嬉しいけれど。
夜23時すぎ。今日の仕事を終え私服に着替え旅館を出た私は、言われた通り新藤屋から少し歩いて一本細い道を抜けると、昔からあるのだろう家々がちらほらと並ぶ道に出た。
その中に一軒、茶色い壁に青い屋根の小さなアパートを見つけ私は足を止める。
「……ここだ」
ささやかなエントランスに並んだポストから『205・芦屋』の名前を見つけ、確認をすると階段を登り部屋へ向かう。
205号室、205号室……。ドア開けると女がいたりしたらどうしよう。なんて、慎との一件のせいで嫌な想像をしてしまう。
ないない。ていうか、千冬さんはよそに女を作る暇もないか。
日頃の彼の慌ただしさを思い出し、思わず笑ううちについた部屋で鍵を開け、白いドアをガチャリと開けた。
「……お邪魔しまーす……」
そろ、と中を覗き込む。すると、目の前に広がる少し広めの2DKの部屋は電気がついており、テレビの音まで響いている。
あれ、電気つけっぱなし。っていうより、誰かいる……?
不思議に思いながら部屋を見ていると、玄関横のトイレであろう場所からはザー、と水の流れる音とともに姿がひとつ現れた。
「あ、おかえりー。珍しいじゃん、この忙しい時期にアパート戻るなん、て……」
それは、パーマをかけた明るい茶色の髪をふわふわとさせ、Tシャツにデニムとラフな格好をした若い男性。
彼は驚く私の顔を見て、少し垂れた二重を同じように驚かせる。