カメラマンと山小屋はよく似合う

− 裏山のロッジ −

「……あれ」

孫一人、祖母の家に里帰りして一週間ほどが経った夜。客間の窓から見える裏山の、そう遠くない位置にぼんやりと灯る淡い光。そういえばあの辺りには、確か小さなロッジがぽつんと一軒建っていた。

そっか、遂に買い手が見つかったんだ。

布団を肩まで引き寄せて目を瞑れば、瞼の裏に“売家”と書かれた看板と、映画に出てくるような寂れた木製のロッジが浮かんでくる。

流石に中には入れなかったけれど、外のバルコニーはなかなか広く、昔はそこでよく遊んだ。裏山に遊びに行けるのは夏だけで、見つけた花を木の柵に結んでみたり、日向ぼっこをしながらいつの間にか眠っていたり、思い出してみれば本当に色んな事をした場所で。

おばあちゃんはそんな私を探しにくるたびに、『仕方のない子だねぇ』と怒るでもなく困ったように笑うのだった。


すっかり忘れていた場所なのに、いざ行けなくなると思うと急に名残惜しい気持ちになるのは何でだろう。


次第に遠くなる意識の中で、明日は数年ぶりに裏山探索でもしてみようかと考えた。

そのついでにロッジをちらりと見るくらい、きっと誰も咎めはしないだろうから。
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