カメラマンと山小屋はよく似合う
翌日、私はたっぷりと昼前まで寝て、朝ごはんとも昼ごはんともとれない軽食を食べた。それから顔を洗って服を着替える。ファンデも塗らないドすっぴんで外を出歩けるのは、田舎ならではの特権だった。どうせ人に会うとしても、近所のおじちゃんおばちゃんくらいだ。気にしない。

「ま、これならたぶん寒くないよね」

一応山登りだから、と選んだのはジーンズ素材のスキニーと、白のタートルネック。その上から着古したモッズコートを羽織った。一月の四矢津(よやつ)町は酷く寒い。すぐそばにある海から、身を切るような北風が叩きつけてくるのだ。

最後にぼふりと足を突っ込んだムートンブーツに、防水スプレーを馬鹿みたいに吹き掛ける。これから雪を中を歩くのに、靴の中まで水分が浸みては困る。ただでさえ冷え性の私のつま先が、確実にご臨終してしまう。中はもこもこで暖かいが、外から濡れやすいのがこの靴の欠点だった。

この場におばあちゃんがいれば、『つーちゃん、長靴の方が良いんじゃない?』と優しく諭してくれるのだろうけど……。


「さて、出発しますか」

行ってきます。誰もいない家の中に、私は元気に声をかけた。


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