涙がこぼれる季節(とき)【完】
土曜日、練習は4時までだったので、俺は作戦を実行することにした。


練習後のグランド整備中、さり気なく他の部員からシュウを遠ざけた。


「なあ、K高が5年前に甲子園出たの、知ってる?」


ちなみに、K高というのは、地元の、野球の強豪私立高校。


「え? ああ」

「そんときの県大会の決勝、見た?」

「いや、見てない」

「はあ? 嘘だろ~。あれを見てないなんて。もしかして、うちの野球部で見てないの、シュウだけなんじゃね?」

「え、マジで?」

「なにしろあの試合の後、S市内の野球少年が10倍になったぐらいだからな」


10倍はさすがに言い過ぎだったか、と反省したが、シュウは嘘に気づかず、


「そんなにすごい試合なら見たかったな」


期待どおりの反応を返してくれた。


「んじゃ、見る? 俺んちにビデオあるから、今日の帰り、寄って見て行けよ」

「え? ……ああ」

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