『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
「あー……」


頭を抱えた。
なんてことをやらかしたのか、私。
最低だ。最低。

いくら酔ってたからと言って、これはない、これは。
出会ってまだ一日足らずの、しかもこれからお世話になるという人に、なんてことを!!

今すぐ自爆したいくらいの居た堪れなさにうなり声をあげて身悶えしていると、体に回された腕にきゅっと力が入った。


「ん……、うるせえぞシロ。静かに寝ろ」


まだ明け方だろ、と頭の天辺で声がした。頭に顔が押し付けられるのが分かる。


「は、はひ……」


一気に、頭まで血が逆流した。
な、なんなの! なんだかすっごく照れるんだけど!
フリーズしてしまった私に、眞人さんは「いいこだ」と寝ぼけたような声で言って深く息を吐いた。
お眠りあそばされたらしい。


「あ、あわ……」


声にならない声が漏れる。心臓がバクバクと動きを早める。
この状況を作ったのは間違いなく私だけれど、この状況に一番ついていけてないのは私だ。

なんてすごい状況になっちゃってるの!

逃げ出したい、いや今すぐ眞人さんに土下座したい。
だけど、これ以上眞人さんを私の勝手で振り回してもよくない。
彼の言う通りまだ明け方のようだし、前夜は遅くまで起きていたし、まだ眠っていたいはずだ。

とりあえず、落ち着こう。
私は必死に、呼吸と心を整えた。それには、結構な時間を要した。


「よし」


果たして、私は小さく呟いた。そっと息を吐く。

眞人さんは、私を背後から抱きかかえるようにして眠っているようだ。
大きな体にすっぽりと包まれている感覚がある。
眞人さんの顔は私の後頭部辺りにあって、穏やかな寝息が感じられる。

そろそろと手を伸ばして、胸元に回された腕に触れてみた。
服越しでも、筋肉をきちんと纏っているのが分かる。考えてみれば、私を事もなげに抱え上げたのだから当然かもしれない。


「……どうしよう」


彼を起こさないようにそっと状況確認をした私は、思わず声を洩らした。

どうしよう。

こんな時に何を考えているのかって話だけれど、これ、すごく安心感があってすごく心地いい。
達也でさえ感じなかった、妙な適合感があるのだ。
私、この人の腕の中、すごく好きかも知れない。ていうか、好きだ。


……って!
いやいやいや!
達也に振られたばかりで、いきなり心変わりとかそういうのじゃないから!
眞人さんのことは嫌いじゃないし、いい人だとは思う。
もしかしたらこの先好きになる可能性だってある。

だけど今の『好き』と言うのは単純に、『居心地の良さ』に関してだから!
この腕の中の安心感、本当にとんでもないから!
間違いなく極上に分類されるソレだから!


誰に言うでもなく(自分に言い聞かせていたのかもしれない)、そう頭の中で叫んでから、私はそっと体の力を抜いてみた。
今までは緊張感が抜けなくてどこか力が入っていたのだ。


……うん、本当に、安心する。


不思議だけれど、ほっとしてしまう。
目を閉じると、彼の鼓動とか吐息が感じられて、落ち着く。
そうして、無意識に目を閉じていた私はそのまま、眠りに引き込まれたのだった。



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