『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
梅之介と私の映画の趣味が同じだと分かったのはつい最近のこと。
たまたま私が借りてきたホラー映画に、梅之介が反応したのだった。

それから話は盛り上がり、休みが重なったこの日、どうしても観たいと思っていた映画に一緒に行くことになったのだ。
眞人さんも誘ったのだったが、「終始画面が赤いようなもん、嫌だ」と言って来なかった。
そんなにしょっちゅう赤くないのに。
まあ、比率としては高いかもしれないけど。


「あー、お腹空いたな。何か食べよう。何がいい、シロ」

「うーん、眞人さんが作らないやつ」

「だな。じゃあパスタは?」

「食べたい! あと、デザートにパンケーキのある店がいい!」

「はいはい。シロはホントに食いしんぼだよね。さっきもポップコーンたいらげてたくせに、甘い物も食べるんだ」

「む、いいじゃん」

「いいけどさ。じゃあこの先にスイーツの美味しい店があったはずだからそこにしよっか」


梅之介は、最初の頃に比べてぐんと優しくなった。
相変わらず私の事をファンキーブスとか綿埃とか呼ぶけれど、そこに棘はない。
まあ、嫌っていたら一緒に出掛けることなんてしないだろう。


「ああ、美味しいねえ」

「……本当に、パンケーキまで食べてるよ。お前、胃袋どうなってんだ」


ペンネアラビアータを美味しく頂いた私は、次はベリーと生クリームがたっぷり乗ったパンケーキと向かい合っていた。
ふわふわのケーキに滲み込んだはちみつと生クリーム、それとベリーの酸味がバランスよく折り重なって、顔が綻ぶ。
この甘さを想定してエスプレッソを頼んでいたのだけれど、正解だ。


「一口ちょうだい」 


カフェラテしか頼まなかった梅之介だったが、気になったのらしい。
私の手からフォークを取り上げ、大きく切り分けたケーキをぱくんと食べた。


「あま! けどまあ、美味い」

「でしょー。あ、」


手を伸ばして梅之介の口元に触れる。


「生クリームついてる」


口の端についた白いクリームを指先で拭ってあげた。


「ふふん。いつも私に綺麗に食べろなんて言うけど、自分もじゃ……」


指先に乗った生クリームを水戸黄門の印籠よろしく見せようとした私だった。
が、言葉を途中で見失った。
梅之介が私の指先に舌を伸ばしたのだ。ぺろ、と舐め摂られる。
指先にざらりとした感触が残った。


「はい、証拠隠滅」


びっくりして固まった私に、ふふんと梅之介が笑う。


「……し、信じらんない! 卑怯!」

「何とでも言え」


全く、なんてことをしてのけるのか。思わず顔が赤くなってしまったじゃない。


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