『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
「もう梅之介にはケーキ分けてあげないから!」

「もういらないよ。顔真っ赤にせずに、食べなよ」

「むか! そういうことは気付かないフリしてよ! ていうか、無反応でいられるわけないじゃない!」

「ふ、そっか。無反応じゃないか」

「当たり前でしょ!」


ぷんかぷんかと怒ってパンケーキを食べる私を、梅之介が笑う。
その顔はやっぱり以前より格段に優しくて、それを見ていたら、まあいいか、だなんて思ってしまう。


「欲しかったらケーキ分けてあげる」


そう言うと、梅之介は「シロみたいにデブになるからいらない」と言った。
やっぱりムカつく男だ。

のんびりと食べながら、話はさっき観た映画の話に戻る。


「気付いたら体を乗っ取られてるって、怖いよねえ」


マチコは、自覚のないまま体を奪われていくのだ。
気付いたときにはすでに遅く、マチコの体の奥深くまでセツコの魂が入り込んでしまっていた。

「ああ。本当にね。急にがばっと来られるなら警戒できるし、対応もできる。だけど、ゆっくりと、気付いたらっていうのはタチが悪い。対応できないし、もう手遅れなんだからな」

本当に、タチが悪いよなあ、と梅之介がため息交じりに言う。
その口ぶりはどうしてだかしみじみとしていている。


「なんか実感籠もった口調だね。どうして?」

「僕が、マチコに共感できてるってことだよ」


ちらりと私を見て言う顔に、冗談の色はない。


「は? 梅之介、悪霊に憑かれてるの?」

「……そうかもね。いやきっとそうなんだろ」


はあ、とため息をつく梅之介。何のことだか。


「せめてこれってきっかけがあれば、気付けたんだよなあ」

「なんのことよ」

「なんでもない。ほら、デブを邁進すべく、食物摂取しろ」


本当に口の減らない男だ。
最近はちゃんと体重管理できているのだ。だから、たまの息抜きは必要なんだもん。
私は怒りながらも、パンケーキをしっかり完食したのだった。


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