On Your Mark
二つの国の世界
異常なし



ペスチニア王国とユーシチール国の国境、第四防衛ラインで、今日も僕はこの言葉を使う。



ここに配備されて一週間が経とうとしたが、これまで『異常なし』以外の通信を本部にしたことはない。

もともと、このラインから敵国であるユーシチールが責めてきたという例は少なく、歴史によれば開戦直後に二度ほど記録がある程度で、ここ三十年は両国とも踏み入れることのなかった不毛地帯だった。



しかし、戦争に賛同できない僕にとってこの不毛地帯は、居心地は良くないが決して悪いところではなかった。

空気は重く、鼻に劈くような匂いにはまだ慣れないが、他の防衛ラインと違って、人に銃を向けずに済む。



この第四防衛ラインは僕の他には二人、つまり三人しか配備されていない。

三人しか配備されていないが、僕たち三人はある『能力』を持っている、いわゆる『能力者』というやつだった。

だからこそ、この三人が配備されたのだろう。
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