On Your Mark
「・・・明朝五時。

ここの裏側からと、西からも部隊がくる。

・・・ペスチニアだよ」


「やっぱり。

ペスチニアが求めているのは、彼女だ」


「じゃあ、どうするよ」


「俺たちで彼女を助けるんだ」


「ふざけんな!」


無意識に怒鳴り、壁を思い切り叩いていた。


「助けるって、どうやって」


「彼女が飛べるところまで連れて行く。

さっき意識が戻ったとき、彼女は綺麗な空気を求めていた」


「ここはお世辞にも空気がいいとは言えねえもんな」


「だから、そこまで連れて行く」


「どこにあんだよ、そんなところ。

世界中が戦争しているんだ、そんなところあるわけないだろう」


「あるはずだ。

そうでなければ、この子の存在はどう説明する?」


正論だ。



イビルの言うことはいつも何もかも正論で、僕が彼に口頭で勝てる要素がなかった。


「だったら、そのまま明朝来る奴らに渡せばいいだろ」


「残念ながら、それは駄目だ。

明らかにこちらに対して歓迎というような感情ではないからな」


「つまり明け渡しても助ける気はなし、それどころか僕たちの命も危ないな」


「・・・」


「ツバサ」


優しい言葉とともに、そっと肩に手を乗せる。

僕が泣きそうになると、イビルはいつもこの仕草をしてくる。

それが今日は残酷なまでに辛かった。
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