On Your Mark
「さっ、そうと決まれば早く寝よう。

出発は明朝五時前だから」


浄水装置に食器を運び、それらを洗い始める。

順番通り、食事当番は僕だったので当然のことなのだが、今日は特別と言ったところのようだ。


「どうした?

二人はもう寝るようだから、お前ももう寝ていいんだぞ」


几帳面だとよく言われる性格のためか、食器を一つ一つ丁寧に洗っていく。

その姿を後ろから見守るように眺め、その場から動こうとしない。

その気配は、どこか寂しそうだった。


「別にお前がそんなに寂しそうにすることはない。

俺たちは好きでやっていることだから」


「・・・」


「通じない・・・よな」


僕は「へへっ」と苦笑いし、全ての食器を洗い終えた。

そして、全てを専用の袋に入れようとすると、その手を優しく握ってくる温もりを感じた。


「・・・お前。

もしかして、言葉が分かるのか」


視線はこちらに向かずに、握っている手を見つめていた。

やはり、言葉が通じてはいないのだろう。

それでも・・・


「心配するな。

絶対にお前がまた飛べる、そんなところへ連れていってやるからな」


囁くような小さい声だったが、力強く、握られているその手に誓った。
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