心の裏側と素肌の境界線を越える為に
片桐は目を丸くして、近付いてくる俺を見た。


「いっしょに帰らないか?」

もう一度、言ってみた。

軽く言ってみたつもりだったけど、顔が強張っていることに気付いていた。

表情を作る余裕がなかったのだ。

でも、真っ直ぐな気持ちだけを伝えたかった。


そんな俺に、片桐は苦笑した。

「積極的ね」


「え!あっ…え…」

笑われたことが予想外で、しどろもどろになってしまった。

そんな俺の様子に、今度はふきだした。

「ええっと…」

俺は、何も言えなくなってしまった。

そんな俺に、赤い定期入れから定期券を抜くと、

片桐はそれを示し、

「わかったわ。いっしょに帰りましょう」

にこっと微笑んだ。
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