婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
結局、田中が驚くほどの手際のよさで、鍋つゆから具材まで調理してくれた。

「稜はいい奥さんになるな」匠さんは上機嫌で鶏つくねを頬張る。

「そ、そんなことないだろ」田中もまんざらじゃなさそうにニヤニヤしている。

本当は私が言われるハズだった筈なのに…苦々しい気持ちでつくねを一口食べる。

「お、美味しい」悔しいが味は絶品だった。

「ご飯も炊いてあるからな」

田中は甲斐甲斐しく食事の世話を焼く。

冷たい人だと思ってたけど、意外とマメな性格なのかもしれない。

田中はバイク、藤原も車で来ていたので、お酒は飲めず食後は四人でアイスクリームを食べる。

「しかし、この家なんだか落ち着くな」

藤原はボソリと呟く。

「そう?泊って行けば?」

私がさり気なく言うと三人はギョッとした表情で私を見る。

「遥ちゃん、気持ちは嬉しいけどさすがに婚約者の前でウンとは言えないよ。兄貴にも殺されちゃうしね」

藤原から丁重にお断りされてしまった。

「そっか。お布団もまだないしね。でも炬燵でごろ寝すれば?」

「いやいや、そういう問題じゃないだろう」田中が冷静な口調で突っ込む。

私は意味が解らず眉根を寄せた。

「そういう事か…」

匠さんはハッとした表情を浮かべる。

「遥にとって『泊る』というのは、単純に部屋で寝て行く、っていう意味だったんだな」

何を当たり前のことを言っているのだろう。

私がきょとんとした目で見ていると、藤原が同情したような苦笑いを浮かべて匠さんの肩に手を置いた。

結局、二人とも泊ることはせず「匠、頑張れよ」と言い残して各々家に帰って行った。

ちなみに田中においてはきっちり鍋まで磨きあげてくれた。やはりマメな男だ。
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