婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「あの、今みんなでお鍋しようって話してるんだけど、燁子さんもよかったら一緒に食べない?」

「お鍋…?美味しそうね…」燁子さんの瞳は一瞬キラリと輝いたが、チラリと田中に視線を向けると困ったように目を泳がせる。

「美味しいよ!食材もたくさん買ってきたし。ねえ!」

私が田中に振ると「…ああ」と言ったっきり押し黙った。

何なんだこいつはさっきから。私は怪訝な表情で田中に視線を向けると以前俯いたままだ。

「あ!」思わず私は声を上げてしまった。

照れている…こいつはただ照れているだけなんだ。

意外な一面を垣間見てついニヤリと笑ってしまうと、田中は鋭い視線を向けてきた。

「あ、ありがと、遥ちん!でも…私ちょっと体調が不振だから、家で休む」

いつもだったら田中は「なんだその変な日本語」くらい言うだろうけど、無表情のまま微動だにしない。

なまじ美しいだけに本当に人形になったみたいだ。

「ごめんなさい」田中にもペコリと一礼すると燁子さんはパタパタと家に向かって逃げるように走り去ってしまった。

今度は転ばなかったようでホッとする。

「随分嫌われてるのね?なんかした?」私はチラリと田中を横目で見る。

「何もしてない。から、なんで嫌われてるか解らない」

燁子さんが去っていった方向をジッと見つめたまま田中はボソリと呟く。その横顔は少し寂しそうだった。

もしかして田中は親友にそっくりな妹に恋をしているのかもしれない。

…けど、それを冷やかした日には何をされるか解らないの胸の内に秘めておこう。
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