婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「いきなり現れて、公衆の面前で大恥かかされたんだよ?寄りにもよって、な、な、中谷さんの前で…」

昨日から、堪えてたものが一気に込み上げてきた。

涙が零れそうになったが缶コーヒーと共にグっと飲み込む。

「おお!純潔女!」

プライバシーの侵害も甚だしい呼称で呼ばれて、反射的に振り返った。

葛城の友人、田中と藤原がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。

私の隣の椅子をひくとドカリと田中が腰を下ろした。その向かいに藤原も座る。

田中は長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳で、不躾なほど私の顔を眺める。

「な、なんですか」あまりの居心地の悪さに思わず口調がきつくなる。

「あの後、匠とどこ行ったの?」無表情のまま、田中が尋ねる。

「ええ?!遥、昨日は葛城さんと一緒だったの?!」瑞樹は目を瞬かせる。

「仲良く手を取り合ってタクシーで夜の街へ消えて行ったよねえ」藤原がニコニコ笑いながら言う。

こいつは…余計な事を…心の中で舌打ちする。

「食事をご馳走して貰っただけです」私はポーカーフェースで交わす。

「へえ、本当にそれだけ?」田中が私の顔をジッと見つめて尋ねる。

キスされた感触がふと脳裏に過ぎり思わず私は赤くなる。

全て見透かしたように、田中は唇の端を上げてニヤリと笑った。

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