初恋 二度目の恋…最後の恋
 私たちが話していると、ゆっくりと優雅に歩いてきた折戸さんは小林さんと私を見てちょっと睨む。困った子どもを窘めるかのように言葉を零したのだった。


「走るのは自由だけど途中で折り返して来い。車に戻るのが大変だろ」 


 折戸さんの言うとおり、車を止めた場所からここまではかなりの距離。手を引かれていたからこんな遠くまで走れたのだと思う。真っ白な砂浜に木で出来たデッキが続いていて、一番先に行くほど細くなっている。最初に居た場所が細くなるほどの距離を私は小林さんに引かれて走ってきたのだった。


「走って戻ればすぐですよ」

 
 小林さんの自信満々の答えに折戸さんは小さく溜め息を零す。でも、溜め息を零しながらも顔は笑っていて…小林さんが可愛くて仕方ないというのがアリアリだった。ただの会社の後輩という感じではない。まるで本当の兄弟のように小林さんを見つめている。


「坂上ちゃんはゆっくり歩くのがいいよね」


 折戸さんの視線と小林さんの視線が私に注がれる。特に小林さんのまるで子犬が甘えてくるような視線が痛い。そんなに真っ直ぐな瞳で見つめられると…折戸さんの言葉に頷けない。でも、もう走れない。


 小林さんごめんなさい!!


「ゆっくりがいいです」

「え~マジで?」


 別に折戸さんの意見だからというわけではない。単に走る気力がなかった。ガッカリと肩を落とす小林さんを可愛いと思ってしまう。年上なのになんで小林さんは可愛いのだろう。


「小林さんは素直ですよね」


「そう見えるなら、今の俺の環境が恵まれているからだよ」

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