初恋 二度目の恋…最後の恋
 小林さんは一瞬だけ切なげな表情を浮かべるとすぐに無邪気に笑う。そして、折戸さんに向かって満面の笑みを浮かべたのだった。その微笑みが妙に心に残る。なんだろ。少し胸の奥がカチッと音を立てる。


 小林さんはいつものように笑っていて…。そんな私に誰も気付かない。


「ちょっと遊んでいいですか?このまま帰るのは勿体ない」


「何をするんだ?」


「ちょっと海に入りたいと思って…。」


 海に入るのにはまだ早いでも、小林さんは行く気満々。そんな小林さんを折戸さんは止める気配はない。それどころかまるで保護者のような言葉を零したのだった。


「構わないが、泳ぐなよ。まだ寒い」


「泳いだりしませんよ。じゃあ、坂上ちゃん行こうか」


「え。私もですか?」


「もちろん。一緒に遊ぼう」


 そう言って手を伸ばされると、どうしていいか分からなくて私は折戸さんを見た。折戸さんも私の気持ちは分かってくれたみたいだけど穏やかに微笑むだけだった。


 これは行けってこと?


「坂上ちゃんも遊んできたらいい。車に足を拭くタオルはあるよ」


「ほら、行こうよ」


 私が躊躇していると、小林さんがキュッと私の手首を掴んで引っ張る。私が小林さんと一緒に海に入って遊ぶのは決定事項。引かれて走り出した私の視線の先には手を振る折戸さんの姿があったのだった。



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