初恋 二度目の恋…最後の恋
「いきなりはヤバい。連絡してからなら分かるが」


「サプライズで押しかけません?高見主任の驚いた顔がみたい」


「驚くも何も非常識だと思うぞ」


 折戸さんの言っているのが正しいと思う。夕方になり、もう日が暮れたこんな時間にいきなりマンションに押し掛けるというのはどうかと思う。


「きっと高見主任は喜びますよ」


 喜ぶって…。本当に小林さんは楽観的だと思う。でも、結局は小林さんの勢いに押されてマンションのエントランスまで来てしまっていた。折戸さんももう何も言わない。小林さんのあまりにも嬉しそうな顔に今となっては留守であることを祈るだけ。そして、目の前にはオートロックがある。



「じゃあ、俺と折戸さんは柱の陰に隠れているから、坂上ちゃんが押してね。部屋番号は1206だよ。」


「え。私が押すのですか?」 


「だって、俺と折戸さんじゃ開けてくれないかもしれない。なんか相談があるとか言って開けて貰ってよ」


「無理です」


「無理じゃないよ。坂上ちゃんなら出来る」


 折戸さんに関しては既に諦めの極地。自分から柱の陰に隠れに行く。オートロックの前で戸惑う私に小林さんはニッコリと笑うと、サッと高見主任の部屋番号を押して、カメラの映らない位置に身を隠した。心の準備も出来てないのに…いきなりで、私は焦り捲り。心の中で留守であって欲しいと心から願う。


『坂上さん?』



 高見主任の声がインターフォン越しに聞こえると私の願いは儚く散った。


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