初恋 二度目の恋…最後の恋
 高見主任は優しい。これ以上聞かれると私が泣き出すのをわかっているのだろう。涙の琴線には触れないで帰っていくのは優しさだと思う。営業一課の人がみんな帰っていく中、小林さんがふと足を止めると、私の瞳を見つめた。みんなが出て行くと、一人、小林さんが葬儀場に足を止める。


「会社で待ってる。美羽ちゃんがいないと営業室が寂しいよ」


 私はその言葉に出来る限りの笑顔で答えた。その気持ちに小林さんは気づいてくれたのだと思う。綺麗で眩しい笑顔を私にくれた。




 その夜。私はお祖母ちゃんの傍で夜を明かした。最後の夜は静かで優しさに満ちていた。思い出は涙ではなく私に綺麗な思い出と優しさをくれたのだった。



「ちょっと待って。美羽に渡すものがあるの」


 お祖母ちゃんの通夜も葬儀もすべて滞りなく終わり、そして、自分のマンションに帰ろうとする私をお母さんはは呼び止めた。お母さんの手には小さな箱があって、それを私の方に差し出した。何かと思ってその箱を開けるとそこには見覚えのあるものが入っている。


 私が小学校の時に作って渡した折り紙で作ったカーネーションだった。


 母の日に友達と一緒に作ったもので、みんなは自分の母親に渡したけど、私はそれをお祖母ちゃんに渡した。仕事で遅く帰る母よりも一緒にいることの多いお祖母ちゃんの方が私には身近だった。でもこんなものが残っているとは思わなかった。


「お祖母ちゃんの病室の引き出しに入っていたのよ。よほど大事にしていたのね。これは美羽が持っていた方がいいと思って」


 小さな箱は私に手渡される。
 お祖母ちゃんの優しさの欠片。


 私はそれをしっかりと抱きしめて自分のマンションに戻ったのだった。


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