初恋 二度目の恋…最後の恋
 折戸さんは会社の近くから堂々とタクシーを拾う。定時を少し過ぎたくらいの時間だから、周りに同じ会社の女の子がたくさんいて、折戸さんに眩いくらいの視線を向ける。でも、折戸さんは周りは全く見てなくて、何か考え事をしているように見える。


「美羽ちゃん。気を付けて乗って」


 私がタクシーに乗り込んだ後に折戸さんが優雅に乗り込んできた。折戸さんは穏やかな口調で行き先を告げると、私の方を見てすまなそうな声をタクシーの中に響かせた。


「ごめん。今日は勝手に店を決めた。和食でいいかな」


「はい。和食好きですから」


 今日の折戸さんはいつもよりも少しだけ余裕がないような気がする。私よりは余裕はあるんだけどいつもと違うのだけは分かる。いつもは色々話してくれるのに、タクシーの中でも折戸さんは何も話さず、考え事をしているようで、私は少しだけ不安になった。


 タクシーが止まったのは大きな幹線道路だった。そこには折戸さんが行きそうな店は全く見当たらない。でも、ここで降りるという。


「ここから歩いてちょっとだから」


「はい」



 折戸さんの少し後ろを歩いていると、急に立ち止まると、折戸さんはさっきまでの表情とは違い、いつもの優雅さを漂わせながらニッコリと微笑んだのだった。


「ここだよ」


 折戸さんの指差した先には隠れ家のような雰囲気を醸し出す小さな建物があった。黒の漆喰を塗りこんだ壁に木製のドア。小さなランプが一つ。看板の一つもないから、ここに店があるとは思えない。
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