初恋 二度目の恋…最後の恋
『本社で営業課に配属されたと聞いた。研究所と営業課ではあまりにも違うが、坂上なら頑張って仕事をして行けると思う。でも、あんまり頑張りすぎず、ゆっくり頑張れ。坂上は真面目すぎるから少しは気を抜いたほうがいい仕事が出来ると思う。帰ってくるまで俺は研究を進めておくから一緒に研究しよう。中垣』



 優しい言葉を紡ぐ先輩は次々に新しい成果を挙げていく研究所でも一番の切れ者で普段は必要ないことは話さない人だった。ずっと一緒にいたけど、個人的なことは話すことがなかったので何を考えているかはわからなかった。


 実際に転属すると言った時も『そうか。仕方ないな』と言っただけ。それなのに、こんな優しい思いを抱いてくれていたとは思いもしなかった。転属しなくてそのまま研究所にいたら、先輩の優しさに気付かなかったと思う。一緒にずっといたのに私は先輩の優しさを知らなかった。


 離れてみてわかることもある。


 中垣先輩は優秀な研究者で私は尊敬している。先輩のいうようにまたいつか一緒に研究出来たら思う。それは叶えられないことだとわかっているけど、もしいつかとも思う。私は『ありがとうございます。』というメールを打つと、窓から見える空を見上げる。


 朝の鉛色の空は払拭され綺麗な空が広がっていた。

 
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