初恋 二度目の恋…最後の恋
 折戸さんは声を掛けてきた店の人に軽く手を上げると、店の奥の方に勝手に歩いていく。案内もされてないのに入っていくのには驚きはしたものの遅れないように付いていった。店の人もそんな折戸さんを見て平然としている。


 私が頭を下げてから店に入るとカウンターの奥にいる男の人は『いらっしゃい』と囁くように優しい言葉をくれたのだった。その声を聞きながら、ここは折戸さんがよく来る店なのだと確信した。そうでないと案内されずに店の中に入っていくのは説明出来ない。


 真っ直ぐにカウンターの横を擦り抜けて行った先は小さな隠れ家のような部屋だった。木製のテーブルにはキャンドルの光が揺れる。天井には小さなランプが一つ。テーブルの上のキャンドルの光を殺さない程度の優しい光を放っている。靴を脱いで上がり、ゆっくりと座ると、テーブル越しに折戸さんも座る。


 テーブルが小さいからか、折戸さんとの距離が近い。急にふわっと折戸さんの香りがしてドキッとしてしまう。そんな自分の中の焦りを誤魔化すかのように私は言葉を零した。


「素敵な部屋ですね」


「一人になりたい時によく来るんだ」


「そうなんですね」



 折戸さんのように艶やかな人が一人になりたい時があるとは思いもしなかった。皆で仲良く飲んでいるというイメージが強い。いつも人が周りに溢れてる。私の中の折戸さんのイメージはそれ。でも、今は…。


「何にする?今日は少し飲む?」

 
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