初恋 二度目の恋…最後の恋
「プロポーズって…。あのプロポーズですよね」


 小林さんは念を押すように言うと、折戸さんはいつものように穏やかな微笑みを浮かべながら小林さんを見つめていた。パソコンを打ち込んでいた手を止めるとニッコリと微笑む。


「ああ。そうだよ。俺が美羽ちゃんに結婚を申し込んだ」


 折戸さんは冷静そのものだった。社内恋愛は秘密裏に行われるものではないかと思っていたけど、折戸さんは隠したりしないのだろうか。それにしても、昨日、好きだと言われたばかりで折戸さんに返事さえもしてないのに、なんで小林さんに言うのだろう。


「折戸さんと美羽ちゃんが結婚…」


 小林さんは呆然としたままで、折戸さんの顔を見る。そして、折戸さんも小林さんの顔をしっかりと見つめた。その顔には昨日私にプロポーズした時のように真面目な表情をしていて、隠す気はサラサラないようだった。


「フランス支社に行くのが決まって、美羽ちゃんと一緒に行きたいと思った。美羽ちゃんのいつも一生懸命な姿も好きだし、一緒に居るとホッとする。だから、これからも傍にいて欲しいと思った時に素直に『結婚』という言葉が頭に浮かんだ」


「付き合ってもないのにですか?」


 小林さんの疑問は尤もで、私は折戸さんと付き合ってさえいない。きちんとお付き合いを経てから結婚というものがあるのではないだろうか。でも、折戸さんは余裕綽々で少しも揺るがなかった。


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