初恋 二度目の恋…最後の恋
 タクシーが私のマンションの前に着いたのはそれからすぐのことだった。送ってくれた小林さんにお礼を言おうと思うと、小林さんはさっさとお金を払って自分も降りてしまった。そして、私が言葉を発する前にタクシーは言ってしまったのだった。


 徐々に小さくなっていくタクシーは角を曲がると完全に姿を消してしまう。小林さんはどうするんだろう。今から折戸さんの送別会の二次会に行くはずなのに…。そんな私の疑問に小林さんはニッコリと笑ってくれた。その表情は私の心配は大丈夫と教えてくれる。


「美羽ちゃんが心配だから部屋に帰りつくまでここで待ってる。部屋に帰ったら携帯にメールして。きちんと部屋に入ったのを確認したら、俺は二次会に行く」


 小林さんはマンションの横にある自動販売機でスポーツドリンクを買い、それを私に持たせると自分はマンションの壁に寄り掛かり私を見つめていて、私がマンションの中に入っていくのを待っているようだった。


「でも。本当に大丈夫です。早く折戸さんの送別会の二次会に戻らないと、待っていると思いますよ」


「ここまで来たのだから、美羽ちゃんが自分の部屋まで帰るのを待つのも、ここで帰るのもそんなに変わらないと思うよ。さ、今日は冷えているから早く部屋に戻って」


 何を言っても、小林さんは帰りそうもない。こういうところは頑固だと思う。小林さんの吐き出す息は白くなっていて、今日は空気も冷えている。そんな中、小林さんを待たせる方が時間が掛かる。少しでも早く自分の部屋に帰る方が小林さんの負担にならない。

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