初恋 二度目の恋…最後の恋
「展望デッキに行って見送ろうか。」

「はい。」


 小林さんの言葉に一緒に展望デッキに上る。透き通るような綺麗な天気で、私は大きく深呼吸する。深呼吸しないともっと涙が止まらなくなりそうだと思ったからだった。展望デッキは寒い季節だからか、外には誰も出ていない。でも、室内からではなく私は風が冷たい外で折戸さんを見送りたいと思った。


 寒いのに小林さんは何も言わず私の傍にいてくれる。最初、私の右側に居たのに、すぐに私の左側に立って折戸さんの乗っている飛行機を見つめている。左側の方がよく見えるから移動したのかと思ったけどそうじゃないと思ったのは、音を立てそうなほどの風が吹いた時、私の身体は小林さんの身体で直接風を受けることはなかった。


 小林さんが私の左に立つ理由は…少しでも私が寒くないようにとの思いだと気付く。折戸さんも小林さんも本当になんて優しいのだろう。


 折戸さんの乗る飛行機は時間通りに離陸準備に入っていた。滑走路をゆっくりと動き、ジェットエンジンの激しい轟音を聞きながら見つめていると滑走路を凄い速さで走りだし、スムーズに離陸したのだった。折戸さんの乗った飛行機からは真っ白な筋が青い空に引かれていく。


 その筋が見えなくなるまで見ていると、我慢していた涙が零れだす。


 願わくば…あの誰よりも優しい人の行く先に幸せが溢れますように。


 そう願わずにはいられなかった。


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