初恋 二度目の恋…最後の恋
 私は何も望んでは居なかった。


 だから、もう運は必要ないと思っていた。一生の仕事である研究職に就けたのだからそれで一生分の運を使い果たしたとしても悔いはないと。世間一般の女の子のいう恋愛にも興味はなかったし、恋愛というよりも人と関わるのが苦手。だから、今の研究職は天職。そう思っている。


 私が勤めているのは名の知れた企業の素材開発部門でその中でも特に新製品の開発に力を入れている研究室だった。そんな場所で私が相手をするのは実験のための素材とそのデータを解析するための機材やパソコン。定期的にレポートさえ上げれば多くの人と関わる必要もない。一緒に研究室を使っている先輩研究員は無口だし、私以上に研究熱心だから、普段、仕事以外で話すことはない。


 静かで穏やかで、研究だけの日々は幸せで退職するその日まで私はこのままここにいるのだろうと信じて疑わなかった。でも、会社に勤めているというのは大学で研究しているのとは違うということをその身に知ることになる。


 春も終わり、初夏の風が吹く頃、それは私の身にも降り掛かった。
 
 
 夏の嵐のように私を襲うのは世間では良くあることだった。でも、自分の身に降りかかるなんて思いもしなかったし、想像さえもしたことがなかった。



 青天の霹靂…。


 まさにこの言葉がピッタリな出来事は私の平穏な人生を大きく揺り動かしたのだった。


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