初恋 二度目の恋…最後の恋
  男の人と一緒に電車に乗るのは初めてだった。


 そして終電に乗るのも初めてだった。研究所にいる時は遅くなる時は仮眠室で泊まることが多かったし、終電は乗ることはなかった。車内がこんなにお酒の匂いが充満しているとは思わなかった。一人で帰らなくてよかったと思うのは乗ってからだった。

 乗り込んだ終電はたくさんの人で溢れている。押しつぶされそうになるけど、小林さんが上手く場所を確保してくれるから、窮屈な感じはしなかった。人の押し寄せる壁になってくれている。


 小林さんの大きな身体の前では私は小さく感じ頭の上から降ってくる優しい言葉は私の心を温めた。身体が触れそうで触れない距離をずっと過ごした。『大丈夫』と繰り返される言葉に私は何度も頷いたのだった。




「駅まで電車で帰って、その後はタクシーできちんと家まで送って貰いました。」


「それならよかった」


 折戸さんは私の言葉に納得したのか仕事をしながら穏やかに微笑む。マンションに帰ってからすぐにメールをしたのに、やはり心配していたのだろうか。小林さんだどうとかというよりも、ドの付く過保護なのだと改めて思う。

 
 私が席に座ると、高見主任が私の席に来て二冊のファイルを机の上に置く。月曜日の高見主任に金曜日の面影はない。ここにいるのは仕事に真摯な人。


「おはよう。坂上さん。金曜日はお疲れ様。さて、金曜日に話していたように、今日から私と一緒に企業訪問を動向して貰う。何も話す必要はないけど、今日の同行先のファイルだから目を通しておいて欲しい」


「はい」

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